モロッコ風景







初めてモロッコを訪れたのは2013年の春。
初めてのアフリカ大陸、初めてのイスラム圏。

未知の世界での一人旅は不安も多かったため、
私はドライバー兼ガイドと共に旅するプランを選びました。

ガイドはとても陽気で親切な方で、
英語でしかやりとりできませんでしたが、
私の低レベルな英語にも面倒な顔せず対応をしてくれました。

旅の中盤、とある町の絨毯のお店に連れて行かれました。
数あるガイドブックや口コミサイトで度々目にした、
いわゆる「ぼったくり」されるという要警戒シチュエーションです。

その時は絨毯にまったく興味がなかった私は、
お店の人がすすめる絨毯を全力で拒否し、
少し空気を悪くしてしまいました。

店を出た後、ガイドはいつも通り普通でしたが、
私は連日の旅疲れもあり、英語で頭を使って話すのも大変だったので、
別に機嫌が悪かった訳ではなかったのですが、
口数少なく、しばらくすると寝てしまったのでした。

それからランチの店に着き、一人でランチをしている間に、
ガイドブックに載っていた「おいしかったです」の意味の
「カン メズヤーン」という言葉を覚えてみました。

ランチを終え、ガイドに「カン メズヤーン」と
言ってみましたが発音が悪いのかイマイチ通じません。
ガイドブックを見せると「あぁ」と、
正しい発音で「メズィヤーン」(厳密には「ムジイェン」)と言い、

「メズィヤーン」は「Goog」という意味だよということを、
教えてくれました。

午後の車内はなんだか重苦しい空気でした。
「気のせいかな?」と思っていると、
「あなたは絨毯屋で楽しくなさそうに見えたけどどうして?」と、
聞かれました。

「あのお店は良心的なお店で、
僕はあなたを安くて上質な絨毯のお店に連れて行ってあげようと思ったのに、
あなたは高い絨毯を売りつけられると思って『No!No!』って怖がっていた。」

「僕はあなたに楽しんでもらいたいし、あなたが楽しくないと僕も楽しくない。
せっかくモロッコまで来たんだからもっと楽しんで!」
と言われてしまいました。

私も言いたい事は沢山あったのですが、
それを英語でどう伝えていいのかわからず、
もどかしい気持ちを抱えながらも「わかったよ。」と、
とりあえずモロッコをもっと楽しもうと気持ちを切り替えたのでした。

そんなことがあってから、ガイドは事あるごとに私に、
「Good?」「メズィヤーン?」と私が楽しんでいるか確認してくるようになりました、
その度に私は「Good!」「メズィヤーン!」と答えました。

最終日、いろいろありましたが一週間共に旅をしてきたガイドに
情が移ったのか別れを思うと、
とても寂しい気持ちになりました。


朝、いつものようにホテルに迎えに来てもらい、
いつものように陽気に挨拶をしたけれど、
油断すると涙がこぼれそうで、思わず無口になります。
最終日、笑って楽しく空港まで行きたいのに・・。

マラケシュから空港のあるカサブランカまでは約3時間の道のりでした。
淡々とした時間が過ぎ、途中でオーディオのコンパネが壊れるハプニングがあった時、
ガイドが「そうそう」という感じで袋を私に渡しました。

中を見るとモロッコ名産のアルガンオイルと石鹸のコスメセットと
サハラの砂の入った小ビンが入っていました。
「プレゼント!」ガイドは笑って言いました。
と、同時に今まで必死にこらえていた涙腺が崩壊。

ガイドはびっくりして「なんで!?」と言いましたが、
すぐにこちらの気持ちを察したのかガイドもしばらく黙っていました。

結局、空港までの道のりは、ほぼ泣いていました。

空港に着き、諸々手続きをしてもらい、
最後の最後、ガイドが心配そうに、でも力強く私に言った言葉は、
「Good?」「メズィヤーン?」でした。
私も「Good!」「メズィヤーン!」と答え、ゲートをくぐりました。

日本に戻ってきてから、旅を振り返ってみて、
アイト・ベン・ハドゥという世界遺産のある場所で、
日本人の団体客に遭遇した時に、ガイドが写真を撮っていたおじさんに向かって、
「No! Photo!」と冗談を言い、 私が「おじさん、びっくりしてたよ。」と言うと、
「みんなにエンジョイしてもらいたいから、ああやって話しかけるんだ」と
言っていたのを思い出しました。

彼は純粋に、みんなを楽しませたい気持ちの持ち主だったのかもしれません。

私もみんなに「メズィヤーン」を提供したい気持ちと、
そんな彼へのリスペクトの気持ちから、
このお店に「Meziyan Morocco」という名前をつけました。

みなさんの生活に「Meziyan」があるといいなと思うと同時に、
この名前を可愛がっていただけたら幸いです。


Meziyan Morocco 店主



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